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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)8012号 判決

原告(反訴被告。以下、原告という) 橋本金属株式会社

右代表者代表取締役 橋本豊造

同 橋本政子

被告(反訴原告。以下、被告という) 有限会社 鯉沼安信商店

右代表者代表取締役 鯉沼三男

〈ほか一名〉

右被告両名訴訟代理人弁護士 鈴木晴順

主文

一  被告有限会社鯉沼安信商店は、原告から金六万七三二〇円の支払を受けるのと引換に、原告に対し、別紙物件目録記載(一)の建物について別紙登記目録記載(二)の仮登記に基づく代物弁済を原因とする本登記手続をせよ。

二  原告は、被告らから合計金一四三万八八〇一円及びこれに対する昭和四六年七月二三日から支払ずみまで年一割五分の割合による金員の支払を受けたときは、

(一)  被告有限会社鯉沼安信商店に対し、別紙物件目録記載(一)、(二)の各建物についてなされた別紙登記目録記載(一)ないし(三)の

(二)  被告鯉沼三男に対し、別紙物件目録記載(三)の土地についてなされた別紙登記目録記載(一)ないし(三)の各登記の抹消登記手続をせよ。

三  原告の被告有限会社鯉沼安信商店に対するその余の請求及び被告鯉沼三男に対する請求並びに被告らの原告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを五分し、その二を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告有限会社鯉沼安信商店は、原告に対し、別紙物件目録記載(一)、(二)の各建物について、別紙登記目録記載(二)の仮登記に基づき代物弁済を原因とする本登記手続をせよ。

2  被告鯉沼三男は、原告に対し、別紙物件目録記載(三)の土地について、別紙登記目録記載(二)の仮登記に基づき代物弁済を原因とする本登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告は、被告ら各自から金七七万六一四九円及びこれに対する昭和五一年九月一一日から支払ずみまで年一割五分の割合による金員の支払をうけたるときは、

(一) 被告有限会社鯉沼安信商店に対し、別紙物件目録記載(一)、(二)の各建物についてなされた別紙登記目録記載(一)ないし(三)の

(二) 被告鯉沼三男に対し、別紙物件目録記載(三)の土地についてなされた別紙登記目録記載(一)ないし(三)の

各登記の抹消登記手続をせよ。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

第二当事者の主張

Ⅰ  本訴請求関係

一  請求原因

1 原告代表者橋本豊造(以下、原告代表者という)は、被告有限会社鯉沼安信商店(以下、被告会社という)の代表者である被告鯉沼三男(以下、被告鯉沼三男を被告三男といい、被告会社代表者としての同人を被告代表者という)に対し、昭和四五年一〇月二三日、二五〇万円を弁済期は内二〇〇万円については昭和四六年一月二二日、内五〇万円については同月二三日、利息と遅延損害金はいずれも月五分で返還を受ける旨の約定で、三か月分の利息として三七万五〇〇〇円を天引きしたうえ、現金二一二万五〇〇〇円を交付した(以下、本件契約という)。

2 原告代表者は、昭和四五年一〇月二三日、本件契約に基づく被告会社の右債務を担保するため、被告代表者との間で別紙物件目録記載(一)、(二)の各建物(以下、それぞれ本件建物(一)、同(二)といい、あるいはあわせて本件各建物という)につき、被告三男との間で別紙物件目録記載(三)の土地(以下、本件土地という)につき、右債務の不履行を停止条件とする代物弁済契約をそれぞれ締結し、右各停止条件付代物弁済契約に基づく所有権移転請求権を保全するための登記については、藤田小吉を権利者とする別紙登記目録記載(二)の既存の仮登記を流用する旨合意し、右各仮登記につき原告を権利者とする同目録記載(五)の各移転登記を経由し、右各移転登記は現存する。

3(一) 原告代表者は、鯉沼明男(以下、明男という)に対し、左記(1)(2)のとおり二回にわたり金員を貸し渡し、その際、明男は、被告会社のためにすることを示した。

(1) 貸渡年月日

昭和四五年一二月一〇日ころ

貸渡金額        一五〇万円

弁済期  昭和四六年三月三〇日

利息・遅延損害金       月五分

(2) 貸渡年月日

昭和四六年一月一〇日ころ

貸渡金額          九〇万円

弁済期  昭和四六年四月一〇日

利息・遅延損害金       月五分

(二) 明男は、右(一)の各契約の際、被告らのためにすることを示して、原告代表者との間で、本件各土地建物についての前記2の停止条件付代物弁済契約をもって、右(一)の各契約に基づく被告会社の原告に対する債務をも担保させる旨合意した。

4(一) 有権代理

被告代表者兼被告三男は、右3の各契約に先だち、明男に対し右各契約についての代理権を授与した。

(二) 表見代理(一〇九条)

被告代表者兼被告三男は、原告代表者に対し、昭和四五年一〇月二三日、被告会社の原告からの追加借受及びこれに関する被告らの物上保証について、一切明男に任せる旨述べて、右3の各契約についての代理権を明男に付与した旨表示した。

5 右1、3の各消費貸借契約の弁済期は経過した。

6 原告代表者は、被告代表者に対し、昭和四七年一〇月一二日ころ、右1、3の各消費貸借契約の弁済期を到来させる旨を通知した。

7 よって、原告は、被告会社に対し本件各建物につき、被告三男に対し本件土地につき、前記2記載の各仮登記に基づき、それぞれ代物弁済を原因とする本登記手続をなすことを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実を否認する。原告代表者から二五〇万円を借り受けた者は明男であり、かつ、明男が交付を受けたのは一九七万八八〇〇円である。

なお、原告は、当初本件契約の日付及び請求原因2の停止条件付代物弁済契約の日付をいずれも昭和四五年一〇月二二日と主張し、被告がこれを認めたのにもかかわらず、準備手続終結後である昭和五六年五月一八日の本件口頭弁論期日において右契約日の主張を昭和四五年一〇月二三日と変更したものであって、右主張の変更には異議がある。

2 請求原因2の事実のうち、原告主張の各移転登記の経由と現存を認め、その余を否認する。

3 請求原因3、4の事実をいずれも否認する。

4 請求原因5、6の事実をいずれも認める。

三  抗弁

1 本件各土地建物の価額は、次のとおりである。

本件土地 一二一〇万八〇〇〇円(ただし、本件土地の更地価額一三六二万〇〇〇〇円からその負担する地上権価額一五一万二〇〇〇円を控除したものである)

本件建物(一) 七四九万九〇〇〇円(ただし、地上権価額七五万六〇〇〇円を含む)

本件建物(二) 六五四万四八〇〇円(ただし、地上権価額五六万七〇〇〇円を含む)

2(一) 被告会社代理人明男と原告代表者は、本件契約に基づく被告会社の債務の各弁済期日にその弁済期を延期する旨合意したうえ、右明男は、原告代表者に対し、右債務の利息の弁済として、昭和四六年一月二二日から同年七月二一日までの間、左記(1)ないし(6)のとおり六回にわたり合計八七万五〇〇〇円を支払った。

(1) 昭和四六年一月二二日 一二万五〇〇〇円(同日から一か月分の利息)

(2) 同年二月二二日 一二万五〇〇〇円(同日から一か月分の利息)

(3) 同年三月二七日 一二万五〇〇〇円(同月二二日から一か月分の利息)

(4) 同年五月二六日 二五万〇〇〇〇円(同年四月二二日から二か月分の利息)

(5) 同年六月一九日 一二万五〇〇〇円(同月二二日から一か月分の利息)

(6) 同年七月二一日 一二万五〇〇〇円(同月二二日から一か月分の利息)

(二) 被告らは、原告代表者に対し、昭和五一年九月初めころ、本件契約に基づく昭和四六年八月二一日現在の被告会社の債務の残元本一三三万二〇〇四円及びこれに対する同月二二日から昭和四八年一〇月二一日までの利息制限法所定の制限利率年一割五分の割合による利息を加えた一五六万六一九七円の金員を準備のうえ、その受領を求めたが、原告代表者は受領を拒絶したので、被告らは昭和五一年九月一〇日右金員を供託した。

(三) 明男は、原告代表者に対し、昭和四五年一二月一〇日ごろ、請求原因3(一)(1)及び同(2)の消費貸借契約に基づく被告会社の債務の弁済として、一か月分の利息一二万円を支払った。(右(三)は被告らの援用しない原告に不利益な陳述である。)

3 被告らは、原告が被告らに対する清算金、すなわち本件各土地建物の価額から本件契約に基づく被告会社の債務の残元本七七万六一四九円、これに対する昭和五一年九月一一日から本件口頭弁論終結の日である昭和五六年七月一三日までの利息制限法の定めに従って減縮された年一割五分の割合による利息ないし遅延損害金五六万三二九二円及び手続費用を控除した金員を支払うまで、原告請求の本登記手続をすることを拒絶する。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実を否認する。本件各土地建物の価額を評価するについて地上権価額を考慮することは失当であり、本件土地の更地価額及び本件各建物の建物自体の価額は次のとおりである。

本件土地    一二七五万六〇〇〇円

本件建物(一)    二九五万一〇〇〇円

本件建物(二)    三二九万四〇〇〇円

2 抗弁2の事実について

(一)のうち、原告代表者が被告会社代理人明男から被告ら主張の日に(1)及び(2)の各金員を受領したことを認め、その余を否認する。右受領した各金員は、遅延損害金として受けとったものである。

(二)のうち、被告らからその主張のような弁済提供があり、これに対し原告代表者が受領を拒絶したこと、被告らがその主張のような供託をしたことを認め、その余を否認する。

Ⅱ  反訴請求原因

一  請求原因

1 本件各建物は被告会社の、本件土地は被告三男の、それぞれ所有である。

2 原告は、本件各土地建物について、藤田小吉を権利者とする別紙登記目録記載(一)ないし(三)の各登記につき原告を権利者とする同目録記載(四)ないし(六)の各移転登記を有している。

3 明男は、原告代表者から、昭和四五年一〇月二二日、二五〇万円を、弁済期は内二〇〇万円については昭和四六年一月二二日、内五〇万円については同月二三日、利息は月五分の約定で借り受け、原告代表者は、その際、三か月分の利息三七万五〇〇〇円及び手数料名下に一四万六二〇〇円合計五二万一二〇〇円を天引きした。

4 被告らは、右契約に際し、原告代表者との間で右契約に基づく明男の債務を物上保証するため、被告会社は本件各建物につき、被告三男は本件土地につき、抵当権設定契約並びにいずれも明男の右債務の不履行を停止条件とする代物弁済契約及び賃借権設定契約を締結し、登記については、藤田小吉を権利者とする別紙登記目録記載(一)ないし(三)の各登記を流用する旨合意し、昭和四五年一〇月二三日、右各登記について同目録記載(四)ないし(六)の各移転登記を経由した。

5(一) 利息の支払

本訴抗弁2(一)と同旨(ただし、「被告会社代理人明男」を「明男」と、「本件契約に基づく被告会社の債務」という部分は「右3の契約に基づく明男の債務」と訂正する)。

(二) 供託

本訴抗弁2(二)と同旨(ただし、「本件契約に基づく被告会社の債務」という部分は、「右3の契約に基づく明男の債務」と訂正する)。

6 よって、被告会社は本件各建物につき、被告三男は本件土地につき、所有権あるいは右3の契約に基づき、原告に対し、原告が被告らから金七七万六一四九円及びこれに対する昭和五一年九月一一日から支払ずみまで利息制限法の定めに従って減縮された年一割五分の割合による金員の支払を受けたときは、請求の趣旨記載の抹消登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1、2の事実をいずれも認める。

2 同3の事実を否認する。本訴において主張のとおり、借主は被告会社である。

3 同4の事実のうち、原告主張の各移転登記が経由されたことを認め、その余を否認する。

4 同5に対する認否は、本訴抗弁2(一)(二)に対する認否と同旨(ただし訂正された部分は否認する)。

三  抗弁

1 所有権に基づく請求(請求原因1、2)について

本訴請求原因1ないし4と同旨。

2 契約に基づく請求(請求原因3ないし5)について

請求原因3の消費貸借契約においては、遅延損害金を月五分とする旨の約定があり、原告代表者は、被告代表者に対し、昭和四七年一〇月一二日ころ、右契約の弁済期を到来させる旨を通知した。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1に対する認否は、本訴請求原因1ないし4に対する認否と同旨。

2 同2の事実のうち、原告主張の約定があったことを否認し、その余を認める。

五  再抗弁(抗弁1に対する)

本訴抗弁2と同旨。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁に対する認否は、本訴抗弁2に対する認否と同旨。

第三証拠《省略》

理由

第一本訴請求について

一  請求原因1について

1  まず、本件契約の債務者について判断する。

《証拠省略》によれば、本件契約書には借主が被告会社と記載されていること、本件契約が締結された目的は明男の事業資金獲得のためであり、被告会社と被告三男を単なる担保提供者にすることも可能な方法の一つではあったが、原告代表者は、当時、起こり得べき将来の紛争を防止するためには、できる限り債務者と担保提供者が一致していることが望ましいと考えており、そのようにすることを強く要望したため、明男と被告三男もこれを了承して、本件契約書の借主名を被告会社としたことが認められる。

証人川上及び原告代表者(第一、二回)は、原告代表者が本件に関し藤岡に赴いたのは昭和四五年一〇月二三日の一回のみであり、原告代表者が被告代表者に対し、同日、宇都宮地方法務局藤岡出張所又は同出張所近くの北村司法書士事務所において、明男同席の下に本件契約の貸金(交付金額については、後記2において判示する)を交付した旨を供述し、被告三男本人はこれを否定する趣旨の供述をし、証人明男は、原告代表者が昭和四五年一〇月二二日、藤岡の被告三男方を訪ねて担保物件の下見をして、その日は帰京し、翌二三日、自分が原告代表者から、東京都内の小倉司法書士事務所において、被告代表者の同席していないところで、右貸金を受領した旨を供述する。しかしながら、被告三男本人の右供述及び証人明男の右証言は、《証拠省略》並びに次の判示に照らし、措信できない。

(一) 証人明男は、昭和四五年一〇月二二日及び同月二三日の同人の行動を記録したものとして《証拠省略》を援用し、一〇月二三日(金)という表示を一〇月二二日の誤記としたうえ、同所の記載は一〇月二二日の行動の記載であり、これに続く金銭の授受の記載は、一〇月二三日のものであると供述するが、《証拠省略》全体の記載態様に照らし、右のような日付の誤記は考えにくいし、仮に右の供述のとおりであるとすると、相当額の金銭の授受という重要な行為が行われた日に限って、日付の記載も場所の移動に関する記載もないことになって、不自然である。さらに、一〇月二三日の箇所の記載が一〇月二二日の行動を記載したものとすると、同所の記載は、同日の行動について述べる明男の前記証言と矛盾し、右箇所の記載を一〇月二三日の行動を記載したものとすると、同所の記載は、むしろ証人川上の前記証言及び原告代表者(第一、二回)の前記供述と付合する面があることになる。

(二) 証人明男は、一〇月二三日に、東京都内の小倉司法書士事務所に本件登記に必要な書類を持って行ったと供述するが、右供述は、本件登記申請が同日宇都宮地方法務局藤岡出張所で受け付けられていること(このことは、当事者間に争いがない)に照らすと不自然である。また、証人明男の前記供述からすれば、原告代表者は、この時点においては当時の登記簿の記載を現実に確認していない可能性が強く、その段階で本件貸金の交付がされたことになる。しかも、小倉司法書士事務所に赴いた理由についての証人明男の供述は、あいまいであって、以上のような疑念を解消するに足りない。

以上の判示に照らせば、本件契約の債務者は、被告会社と認めることができる。本件契約の契約書の日付が一〇月二二日であること(《証拠省略》によって認める)及び本件登記申請書に作成担当者として小倉司法書士の記名印のあること(《証拠省略》によって認める)も、一〇月二三日に先立つ事前の準備と考えることが可能であって、右判示と抵触するものではない。

なお被告らは、本件契約及び請求原因2記載の停止条件付代物弁済契約の各日付の主張の変更について異議を述べるけれども、請求原因事実としての原告の主張を被告が認めた後、原告がその主張を変更したとしても自白の撤回にはあたらず、また、準備手続終結後の主張の変更ではあるけれども、本件においては右変更により新たな立証活動ないし反証活動を要するものでなく訴訟を著しく遅延させないものと認められるから、右主張の変更は許されるものと解すべきである。

2  次に交付金額について判断する。原告代表者(第一、二回)は、同人は、被告三男に対し、一万円札二五〇枚を手渡し、その場で被告三男から利息三七万五〇〇〇円を受け取ったが、手数料等は一切天引きしていない旨供述し、証人川上も、金種の点を除き、ほぼこれと同旨の供述をするけれども、《証拠省略》によれば、当日明男の手元に残った金員は一九七万八八〇〇円に過ぎなかった事実が認められ、右事実及び証人川上の、原告が交付した金員は一万円札だけではなく、千円札あるいは百円札も入っていた旨の証言に照らして考えると、原告代表者の右供述のうち利息についての供述を除くその余の供述はにわかに措信できない。そして、右認定事実に、原告代表者の右供述のうち利息についての前記供述部分を総合すると、金員交付についての原告主張事実のうち、三か月分の利息として三七万五〇〇〇円を天引きしたこと及び少くとも現金一九七万八八〇〇円を交付した事実が認められる。しかしながら一九七万八八〇〇円を超える部分、すなわち一四万六二〇〇円については、他にその交付を認めるに足りる証拠はない。

3  さらに、遅延損害金の約定について判断する。前掲甲第一号証(本件契約書)中には、利息は年一割五分、遅延損害金は年三割との記載が存するけれども、原告代表者は、右契約書は単に便宜上作られたものに過ぎず、本件契約は手形の割引であって割引料は月五分であった旨供述し、証人明男は、月五分という利息約定があったのみである旨供述するので、右甲第一号証のみから、原告主張の遅延損害金の約定の成立を認定することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

4  請求原因1の事実中、以上検討した事項を除くその余の事実については、《証拠省略》によりこれを認めることができる。

二  請求原因2について

請求原因2の事実のうち、原告主張の各移転登記の経由と現存は、当事者間に争いがなく、その余は、すでに判示したとおり本件契約の債務者が被告会社であること及び《証拠省略》によって認めることができる。

三  請求原因3について

まず、請求原因3(一)の事実について検討するに、本件全証拠によるも右事実を認めることはできない。すなわち、原告代表者(第一、二回)は、その趣旨が明確ではないが、おおむね、本件契約の際、被告会社に対しては本件契約も含め総額五〇〇万円を、本件各土地建物を担保に貸し付ける旨予定されており、右五〇〇万円の枠内で被告会社に貸し付ける趣旨で明男に対し一五〇万円及び九〇万円を貸し付け、その際明男から担保の趣旨で《証拠省略》の約束手形を受け取った旨供述するけれども、右判示のように、右の点に関する原告代表者の供述は、全体としてあいまいであってそれ自体信用性が高いものとは言えないのみならず、総額五〇〇万円の融資が予定されていたとの点は、《証拠省略》に照らし疑問があり、右約束手形についても、《証拠省略》に照らすと、担保として差し入れられたものであるか否か疑問なしとしない。また、本件契約については、契約書及び領収書が存するにもかかわらず、右事実については、本件全証拠によるもこれらの書類が作成された形跡を認めることはできない。以上の事情をあわせ考えると、原告代表者の前記供述は措信することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

四  請求原因5の事実のうち、本件契約の弁済期である昭和四六年一月二二日及び同月二三日が経過したことは当事者間に争いがない。

五  ところで、この点について、被告らは右弁済期の延期の合意(抗弁2(一)前段)を主張するので、これを判断するに、《証拠省略》によれば、本件契約においては、前記認定のとおり、約三か月先の弁済期が定められたけれども、当事者双方とも右期日に二五〇万円が返済されることは予想しておらず、むしろ、月五分の利息さえ払えば期限後も借り続けることができる旨合意されていたこと、明男は本件契約にともない、担保として、同人の経営する有限会社藤金建材振出の約束手形五通を原告宛に差し入れたが、右期日の直前に右手形は書き替えられ、明男は原告代表者に対し一か月分の利息に相当する一二万五〇〇〇円を支払い、その後も引き続き利息に相当する金員の支払と手形の書替えがなされたこと、昭和四六年夏ごろ右藤金建材が倒産し、以後利息に相当する金員の支払が滞ったが、原告代表者は昭和四七年一〇月ごろに至り被告らに対し甲第一二号証の一(通知書)を発信して、代物弁済が完結した旨通知したこと、以上の事実が認められ、以上の事実によれば、被告会社代理人明男と、原告代表者との間で、本件契約の弁済期のころ、原告代表者において返済を催告するまではその期限を猶予する趣旨の弁済期延期の合意が成立したものと推認するのが相当である。

六  請求原因6の事実は当事者間に争いがない。

七  抗弁1について

(一)  まず本件土地の価額について判断するに、本件土地の更地価額が一二七五万六〇〇〇円を下らないことは、当事者間に争いがないところであるが、これを超える部分については、これを認めるに足りる証拠はない。すなわち成立に争いのない乙第一八号証(以下、大塚鑑定という)は、本件土地の更地価額を一三六二万〇〇〇〇円と評価するが、他方甲第一四号証(以下、竹本鑑定という)は、これを一二七五万六〇〇〇円と評価している。そこで両鑑定の信頼性について検討するに、いずれの鑑定においても、本件土地の更地価額の評価をするについてその基礎として採用している数値あるいは評価方法に特別不合理ないし不適当と断ずることができる点は見あたらないので、右両鑑定自体の比較からはいずれの鑑定をより妥当と見るべきであるのか判然とせず、他に右両鑑定の信頼性の優劣を判断するに足りる証拠は何ら存しない。そうだとすると、竹本鑑定に照らし、大塚鑑定のみをもってしては本件土地の更地価額は前記のとおり当事者間に争いがない一二七五万六〇〇〇円を超えて大塚鑑定による評価のとおり一三六二万〇〇〇〇円であるとは認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。従って本件土地の更地価額は一二七五万六〇〇〇円と考えるのが相当である。

次に地上権価額を差し引く点については、前記認定事実に弁論の全趣旨を総合すると、本件土地上には本件各建物が存するところ、本件土地の所有者である被告三男は、本件土地を担保に供すると同時に本件各建物の所有者である被告会社の代表者として本件各建物をも担保に供した事実が認められるので、本件建物には地上権ないし何らかの土地利用権が付着しているものと考えるべきであって、本件土地の価額を評価するについてはその更地価額から右利用権の価額を差し引くのが相当である。そして右利用権の価額は後記のとおり本件建物(一)については七〇万八〇〇〇円、本件建物(二)については六〇万一八〇〇円と認められるから、本件土地の価額は前記認定の更地価額一二七五万六〇〇〇円から右利用権価額合計一三〇万九八〇〇円を差し引いた一一四四万六二〇〇円と考えるのが相当である。

(二)  次に、本件各建物の価額について判断するに、建物自体の価額が本件建物(一)については二九五万一〇〇〇円を、同(二)については三二九万四〇〇〇円を下らないことは当事者間に争いがないところである。そこでこれを超える部分について、右両鑑定を比較検討するに、両鑑定によれば、本件建物(二)の東側には昭和五五年ごろ増築が施され、同建物の既存部分と一体として使用されている事実が認められるので、右増築部分は同建物に付合したものとして同建物の価額の評価をすべきところ、竹本鑑定においては右増築部分を評価の対象としていないので、竹本鑑定中の右の点は不相当であるが、建物評価の点に関するその余の点については、大塚鑑定と竹本鑑定を比較するといずれが妥当とも断じ得ないことは本件土地について判示したのと同様である。従って本件建物(一)の建物自体の価額は二九五万一〇〇〇円と考えるのが相当であり、本件建物(二)の建物自体の価額は、右増築部分を除いたその余の部分の価額として前記のとおり当事者間に争いのない三二九万四〇〇〇円に右増築部分の価額として大塚鑑定により認めることができる一〇〇万〇〇〇〇円を加算した四二九万四〇〇〇円と認められる。

そして前判示のとおり右各建物に付着すべき土地利用権の価額については、大塚鑑定によれば、各建物の敷地の価額の三〇パーセントと評価され、敷地部分の面積は、本件建物(一)については四〇〇平方メートル、同(二)(増築部分を含む)については三四〇平方メートルと認められるので、前記認定の本件土地の価額を基礎として右利用権価額を計算すると、本件建物(一)については七〇万八〇〇〇円、同(二)については六〇万一八〇〇円となる従って本件各建物の価額としては、前記建物自体の価額に右利用権価額を加算した価額、すなわち、本件建物(一)は三六五万九〇〇〇円、同(二)は四八九万五八〇〇円と考えるのが相当である。

八  抗弁2(一)のうち、利息支払の点について

被告ら主張の(1)ないし(6)の利息の支払のうち原告代表者が被告会社代理人明男から(1)(昭和四六年一月二二日、一二万五〇〇〇円)及び(2)(同年二月二二日、一二万五〇〇〇円)の各金員を受領したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、明男から原告代表者に対し(3)(同年三月二七日、一二万五〇〇〇円)、(4)(同年五月二六日、二五万円)及び(5)(同年六月一九日、一二万五〇〇〇円)の金員が支払われた事実が認められ(る。)《証拠判断省略》しかしながら(6)(同年七月二一日、一二万五〇〇〇円)の金員が支払われたとの点については、証人明男のこの点に関する供述はあいまいであって、右供述のみをもってしてはこれを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そして《証拠省略》に前記五で認定した事実(弁済期延期の合意)を総合すると、右(1)ないし(5)の金員の支払は本件契約に基づく被告会社の債務の利息の弁済として被告会社代理人明男によりなされたものと認められる。

以上の事実によれば、右各弁済により、本件契約に基づく被告会社の原告に対する債務の利息は、昭和四六年七月二二日分まで支払われたこととなり、右(5)の利息が支払われた日である昭和四六年六月一九日現在の右債務の残元本は、これを利息制限法の定めに従って計算すると一四三万八八〇一円となる(別紙計算書参照)。

九  抗弁2(二)について

被告らが昭和五一年九月一〇日一五六万六一九七円の金員を提供・供託したことは当事者間に争いがないけれども、以上の判示によれば、昭和五一年九月一〇日の残債権額は、残元本一四三万八八〇一円及びこれに対する昭和四六年七月二三日から昭和五一年九月一〇日までの利息制限法の定めに従って減縮された年一割五分の割合による利息ないし遅延損害金一一〇万八五八四円の合計二五四万七三八五円であるから、被告らのなした右提供・供託は債権の一部についてなされたものであって、有効な供託とは認められない。

一〇  結論

以上の事実によれば、原告は本件各土地建物につき、請求原因2の停止条件付代物弁済契約による担保権、すなわち、いわゆる仮登記担保権を有することとなるが、その被担保債権額すなわち本件契約に基づく被告会社の原告に対する債務の口頭弁論終結時である昭和五六年七月一三日現在の残債務額は、これを利息制限法の定めに従って計算すると三五九万一六八〇円(内訳 残元本一四三万八八〇一円、利息ないし遅延損害金二一五万二八七九円)となる。そうすると、本件各土地建物の価額は前判示のとおりであるからいずれの一つをとっても右残債務額を上廻ることとなる。

ところで、債権者が同一の債務の共同の担保として数個の不動産につきいわゆる仮登記担保権を有し、その実行として同一訴訟手続内で本登記手続を求めている場合に、そのうち一部の不動産についてのみ評価清算をすれば被担保債権全額の弁済が受けられるときは、民事執行法第七三条第一項、民法第一条第三項の趣旨に鑑み、担保権の実行はその一部の不動産についてのみこれを許すべきである。従って、本件においては原告の右担保権の実行はいずれか一つの不動産についてのみこれを許すべきこととなるが、本件各土地建物を比較するに、本件建物(一)は後記のとおり主たる債務者である被告会社の所有であり、かつ右残債務額と不動産評価額との差額すなわち剰余価値が本件各土地建物のうちで最も少ないので、原告の担保権の実行は本件建物(一)についてこれを許すのが相当と考えられる。以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告会社に対し本件建物(一)についてその評価額三六五万九〇〇〇円から右残債務額を差し引いた六万七三二〇円を支払うのと引換に本登記手続を求める限度でこれを認容すべきであるが、被告会社に対するその余の請求及び被告三男に対する請求はいずれも失当であって棄却を免かれない。

第二反訴請求について

一  契約に基づく請求(請求原因3ないし5)について

まず、請求原因3の事実について検討するに、右主張は、本訴及び反訴を通じての被告らの主張からも明らかなとおり、本件契約と社会的事実としては同一性の認められる原告からの二五〇万円の借受けについて、その債務者は明男であることを主張するものであるが、本件契約の当事者が被告会社であることは、本訴において認定したとおりであるから、被告らの右請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であり、棄却すべきものである。

二  所有権に基づく請求について

1  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

2  抗弁1及び再抗弁についての判断は、本訴において判示したとおりであるから、これを引用する。

三  以上の事実によれば、被告らの反訴請求は、被告ら両名又はいずれかの被告において、原告に対し合計して残元本一四三万八八〇一円及びこれに対する昭和四六年七月二三日から支払ずみまで利息制限法の定めに従って減縮した年一割五分の割合による利息ないし遅延損害金を支払ったときは、原告に対し、反訴請求の趣旨1記載の各登記の抹消登記手続を求める限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却すべきである。

第三結論

よって、訴訟費用につき民訴法第八九条、第九二条、第九三条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 畔柳正義 池田陽子)

〈以下省略〉

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